主催者は法的責任が課せられるのか?舞台「人狼」でクラスター発生
東京・新宿の劇場で上演されていた舞台「THE★JINRO-イケメン人狼アイドルは誰だ!!-」(6月30日〜7月5日)で、新型コロナの集団感染が発生した。
報道によると、観客や出演者・スタッフ合わせて50人以上の感染が確認されている。
出演していた俳優、山本裕典さんの陽性が確認されているほか、企画原案の映画プロデューサー、有村昆さんも陽性だと確認された。
濃厚接触者は850人にのぼり、波紋が広がっている。
今回のようなイベントでクラスターが発生した場合、主催者側の法的責任はどうなるのだろうか。髙橋裕樹弁護士に聞いた。
●法的責任を問うのは簡単ではない「自粛から一変して、劇場やスタジアムなどでの興業が広くおこなわれ始めたタイミングでのクラスター発生なので、多くの方が非常に興味を持っているところだと思います。
主催者側が負う法的責任としては、業務上過失致傷罪や重過失致傷罪という刑事責任、安全配慮義務違反を原因とした債務不履行責任や不法行為責任といった民事責任(損害賠償責任)が考えられます。
さらに刑事罰を受けたり、賠償責任を果たせなかったような場合、その後の興業が事実上行えなくなるでしょうから、主催者が自己破産をしなければならなくなることもあるでしょう。
もっとも、実際には、主催者の刑事責任や民事責任を問うのは簡単ではないと思います」
●主催者に落ち度はあったのか?「まず主催者側に『過失』(落ち度)が認められなければなりません。
そもそも『完全』に感染を防止する方法など、恐らくないわけですから、イベントを催行するという判断をするのであれば、(1)感染者を劇場に入れないようにする措置や、(2)仮に感染者が劇場に入った場合に、その人から他の人に感染しない予防措置をどれだけとっていたかということに尽きるのかなと思います。
文部科学省が業種別のガイドラインを出すなどしていますので、このガイドラインに則ってイベントをおこなっていた場合は、過失は簡単には認められないかなと思います。
一方、これらの措置が不十分と判断されれば落ち度(過失)ありとして、法的な責任を問われる可能性が出てきます。
報道によると、今回の舞台では、出演の俳優と肩を組んで写真を撮ったり、握手をしたりといった文部科学省のガイドラインから逸脱した行為もあったようです。また、出演者に体調の不調を訴えている方がいたという情報や、座席間の距離や収容人数等の面でも問題があったとの情報もありますので、主催者側に過失があったと認められる可能性は十分あると思います」
●因果関係のハードルは高い「次に、因果関係、つまりこの舞台(イベント)に参加・鑑賞したことが原因で新型コロナに感染した、と認められなければなりません。この因果関係のハードルはなかなか高いと思います。
そもそもイベントで感染したのか、イベント以外(移動中の電車や職場)で感染したのかを証明することは簡単ではないです。さらに感染被害を訴えている人自身がクラスターの原因(新型コロナウイルスを持ち込んだ人)である可能性も否定できません。この場合、逆に主催者から訴えられるリスクすらあります。
ほとんどのイベントや施設で体温測定や除菌励行などの対応はしているでしょう。しかし、その場のノリやお酒の勢いなども手伝って、ちょっとした逸脱行為がなされるだけで集団感染のリスクは高まってしまいます。
その結果、コロナウィルス集団感染や裁判沙汰になれば、多額の賠償責任や主催者の自己破産といった取り返しのつかない事態につながりかねませんし、その風評被害も計り知れません。
『アクセル』を踏むのか、『ブレーキ』を踏むのか、非常に難しい時期だと思いますが、発進するのであれば、大きなリスクと隣り合わせであることを忘れずに、まずは『徐行』から始めていただくのがよいと思います」
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